「緑」とひとことで言っても、実際の色は様々だ。
同じ山に毎週末車で通っていた時期がある。
山を覆う緑は、初夏から真夏、夏の終わりにかけて、毎週その色を変えていることを知った。
その変化を山に通わずとも手軽に楽しめるのは、庭だと思う。
毎日の日課で15時頃に散歩にでることにしているのだけれど、かれこれ2年以上通る散歩コースのハイライトは、ある人の家の庭だ。
その庭は、週に5日歩きながら横目に眺めても、不思議と飽きることがなかった。
最近になって、仕事仲間を誘って一緒に散歩にでた。
今度は彼女と2人でその庭を眺めていると、家の主人がでてきて、話しかけられた。
こんなことは今までなかったのに、ついには庭の中へ招かれた。
「すてきな庭だと思っていました」なんて言うと、
「地味でしょう。これは全部山から持ってきた花なんですよ。だから、派手さがない。」
と話してくれた。
それほどの労力を惜しまずに造られた庭だと知り、驚きながらも合点がいった。
「家内がお茶をやっていたので、山の花を好んだんです。
お茶をたてるときに、一輪必要だと言ってこの庭を。
今でもお茶をしている人が通りがかると、気がついて、一輪分けてくれと言われますよ。」
いくつかの草花について説明してくれるときも、「地味でしょう」と「一輪だけ」という言葉が繰り返されていた。
「もう少し続けてあげようと思うんです。」
という一言を聞いて、奥様は他界されているのだと気がついた。
それ以来家の主人と顔を合わせることはない。
見惚れる庭の秘密を知った今も「あぁ、まだ続けてくださってる。」と喜びながら、同じコースで散歩を続けている。