去年末、特集上映「ウンザ!ウンザ!クストリッツァ!」の予告編を観たことをきっかけに興味を持って、エミール・クストリッツァ監督作品の中でも、まずは「アンダーグラウンド 」を観にEBISU GARDEN CINEMAへ行った。
「天才的クリエーターのカンヌ映画祭パルム・ドール受賞作品」という触れ込みと特集の趣旨ぐらいしか知らなかったけれど、映画の冒頭から狂気的なユーモアやアイディアに圧倒されて、「抜きん出ている存在」つまり「天才」の作品であることに異論はなかった。さっさと両手を挙げて降参したかった。
映画を観ている最中は、狂気的なファンタジーの部分と、ユーゴスラビア、世界大戦の歴史が入り混じって、楽隊の音楽にまくし立てられながら、とても虚ろな世界を見せられているような感覚だった。上映前にロビーで故淀川長治氏のレビューを読んでいたけれど、自分のような映画素人には、この映画には感想さえ持てやしない!と何かを諦めた。戦後の日本に生まれた自分にとっては、戦争も教科書や書籍、ニュースや映像を通してしか知りえないために、戦争そのものに対して持っているイメージも虚ろだ。そのことも、映画を観ているうちに、現実とファンタジーの線を引く感覚が無意識にぼやけてストーリーを追ってしまった理由かもしれない。
それが、ラストシーンに突然肩を揺さぶられるような感覚がした。突きつけられているような気がした。そうだ、事実だったのだと。私が小学生の頃は、地図にユーゴスラビアは存在していた。しかし、今はない。それは、クストリッツァ監督をはじめ、その土地の人たちにとってどんなことなのだろうか。171分という長めの上映時間、色んなものをハイテンションなまま見せられるけれど、最後の1シーンまで見て1つの映画だという当たり前のことを、強く思わされるものがあった。
それも私の場合は、観ている最中や上映終了直後ではなく、帰り道や、家に帰ってから個人的な感想が湧き上がってきた。これはすごい映画だなとじわじわと気がつく。
- 原題
UNDERGROUND - 1995年/171分