ベルヴェデーレ宮殿 (Schloss Belvedere)

クリムト作品の中でも特別視される接吻(Kiss)を実際に見ることができるのは、ウィーンにあるベルヴェデーレ宮殿 (Schloss Belvedere)。バロック建築様式の宮殿は夏の離宮として建設され、かつてはハプスブルグ家のマリア・テレジアによって買い上げられた。今はオーストリア絵画館として中世〜20世紀の絵画とともに一般公開されている。とにかく広い。宮殿横のボタニカルガーデンを散歩するだけでも良い休日になりそうだ。

宮殿には上宮と下宮がある。その時は下宮で特別展が開催されていたけれど、クリムト作品を楽しみに来ている私は、とにかく常設展示がある上宮へと早く行きたい。その広いこと。遠いい。こんなところでもハプルブルク家の隆盛を感じる。

ベルヴェデーレ宮殿(Schloss Belvedere)

常設展示にはルノワールやモネもある。ルノワールの陽光を受けた女性の肌の色彩表現は、確かに色とりどりではあるのだが、当初「腐った魚のようだ」といわれたように、初期のものは確かに鑑賞者の想像力に頼る部分がある。

クリムトの人物画も豊富にあり、ついつい他の展示と比較して見てしまう。クリムトの描く女性の肌は様々な色の上に白が塗り重ねられたようで、それが内側から光っているようだった。表情も少しうっとりしているよう。描かれた女性と目が合っているような感じがして、まるでそこにモデルの女性がいるかのようだった。クリムトは写実というより独自の表現で女性の美しさを描いているにもかかわらず、そこに実際に人がいるように感じられるのは、実物を見て初めて感じたことだった。

人物画も風景画も、画集を眺めて寸法から想像していたよりも、実際は大きく感じられた。例外は、「水蛇」で、これだけは思っていたよりもだいぶ小さく、それにも関わらず、細部まで美しく作り込まれていて、見ていると泣きたくなった。

これらのクリムトによる人物画を集めた部屋があったのだけれど、その部屋は正面の大きな壁だけが一面黒かった。そして薄暗い照明の中に一枚の絵、接吻(Kiss)が浮かび上がっている。この作品もまた、絵を見ているというより、2人の男女がそこにいるのを見ているような気がした。そして、やはりこれも肌の内側から光を放っているようだった。薄暗い中で金の装飾が舞っているような錯覚におちいって、明らかに静止画とわかりつつ、はらはら落ちる金を眺めているようだった。

ベルヴェデーレ宮殿の図録(Schloss Belvedere - Catalog)

どの作品も、絵画作品というよりクリムトがつくりあげた美の世界を鑑賞しているようだった。屋外でイーゼルを立てて描いたであろう風景画も、彼の目で見た美しさとして表現されていた。塗り込められた絵の具から、景色の躍動感や、花の生命感がつたわってきて、まるで、そこにいるようだった。

ウィーンを代表するもう1人の画家、シーレの作品もある中で、やはり圧巻なのは世界一を誇るクリムトコレクション。これを宮殿と云う特別な空間で鑑賞することは、ウィーン旅行の良い思い出になるだろう。