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Dec 23rd, 2016

映画 フローズン・タイム (原題: CASHBACK)

映画「フローズン・タイム(原題:Cashback)」

日本では2008年に公開されていて、ずっと気になっていた映画「フローズン・タイム(原題:CASHBACK)」をやっと観ることができた。

主人公のベンは、初めてのガールフレンドとの別れをきっかけに夜眠ることができなくなってしまう。彼はそのことを「1日が8時間増えた」と捉えて、深夜はスーパーマーケットで働きはじめ、眠れない時間をキャッシュバックすることにする。不眠がエスカレートするにつれ時間の流れを遅く感じるようになり、ついにはベンの周囲は時間の流れが完全に止まる。そうすると、美大生であるベンはなんと、動きを止めた女性たちのデッサンを始める。

このストーリーの不思議なところは、非現実的な設定と、慣れ親しんだ感覚がセットになっているところだと思う。ベンが不眠に苛まれながらも健康な若者であることや、時間が止まってマネキンのように静止している女性たちを描くのは現実的な設定とはいえない。しかし失恋した直後、突然デートの約束や気にかけるべき相手がいなくなり、1日や1時間がとてつもなく長い時間に感じられて、早く忘れてしまいたいのに、膨大な時間の中で失ったものをやたらと後悔し続ける苦痛を体験したことがある人は、少なくないだろう。その苦痛が浮遊感のある現実として表現されているのは、すっと理解できてしまった。「時間操作は科学ではなく、個人の意識で起こる」というセリフは、科学的裏付け云々の前に、私たちが体感している真理の一つに思えた。

また、友人やスーパーマーケットの同僚の自然なキャラクターが、非現実的な出来事をリアルに感じさせてくれる。悪ふざけが得意だけれど憎めない悪友や、実際の自分よりかっこつけようとする大人たち。「いるいるこういう人!」という、決して優秀とはいえないけれど愛すべき普通の人たちが、ストーリーに軽やかさを与えてくれる。

刻々と流れていく時間の中で立ち止まり、周囲の美を発見していくベンを2時間近く観ると、映画冒頭の「愛とはなんなのだろう」という問いかけへの答えが提示されるラストシーンは、うなづくしかないし、その刹那的な美しさの表現はより印象的なものとなった。

心地よいリズムで、VOGUE誌などで活躍する写真家Sean Ellisによる夢のような美しい映像を通して、とてもシンプルなメッセージが伝わる。元々はSean Ellisが撮った短編映画が、アカデミー賞の短編賞にノミネートされて長編映画化されたというのも納得がいく。やっぱり自分はオフビートな映画が好きなのだなと実感させてくれた作品。

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